住民発の「まちづくり」に挑戦! 「羽沢横浜国大駅」周辺住民がバリアフリー基本構想作成を提案
「YNU地域連携最前線」では、本学と包括連携協定を締結している自治体・企業等との連携事業の中から注目される活動をピックアップ。第7回目は「羽沢横浜国大駅周辺地区バリアフリー基本構想の住民提案」について、常盤台地区連合町内会の石川源七会長、羽沢南町内会の和田勝巳会長、常盤台地域ケアプラザの古城高之所長、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の大原一興教授にお話を伺いました。
住民が提案する「地域のバリアフリー」
──今回の「バリアフリー基本構想」の住民提案について解説していただけますか。
大原:2019年11月に開業した「羽沢横浜国大」駅の周辺地域において、バリアフリーの観点から街を住みよくするための構想の提案になります。具体的には、車椅子が通りづらい道や高齢者にとってつらい段差、歩道と車道がしっかりと分かれていない箇所などの問題点をリストアップし、改善のためのアイデアをまとめています。提案に必要な素案づくりは近隣の常盤台地区・羽沢南地区のみなさんとワークショップを重ねながら行い、横浜市へ提出しましたが、実は住民による素案提出は県内初。全国的にも珍しい事例です。
古城:住民による素案提出の仕組み自体は、ずいぶん前から横浜市が用意していたのです。ただ、手を挙げる地域が長らく出てこなかった。ですので、今回の提案は横浜市としても良い前例になるのではないかと思います。
大原:新駅ができる前から、ケアプラザさんや常盤台地域のみなさんといっしょにバリアフリーや防災といったテーマでワークショップをしたり、まちあるきをしたりはしていたのです。そんな中で新駅ができるという話が出てきたので、これまでの取り組みの延長でトライしてもいいかもしれない、ということで提案させていただきました。
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院・大原一興教授
──常盤台地域でのワークショップの取り組みが始まったきっかけを教えてください。
大原:2008年のある日、横浜国大の西門前にあった空き地に地域ケアプラザができるというお知らせ板が立ちました。私はたまたま高齢者施設の研究をしていたので、どうせなら住民の意見を取り入れたらいいのではと思い、市の担当者の方にお声がけしたのです。その際、常盤台地域の町内会の方々とお話をする機会を設けていただきました。
古城:ケアプラザの開設は2009年10月だったので、それまでの1年間は大学内でワークショップをしていましたよね。
大原:最初はとりあえず建築計画で関わるつもりだったのですが、実際に建物ができた後も、この施設をきっかけにこの地域のまちづくりに携わりたいという思いが強くなりました。それが今日まで継続している次第です。
石川:町内会ではケアプラザができる以前も、地域のさまざまな課題について、各自治会でそれぞれ話し合いや取り組みを行ってはきましたが、役員さんなど決まった人しか参加しないのが当たり前でした。住民の皆さんが参加して活発に話し合う文化が根付いてきたのは、このワークショップのおかげです。
常盤台地区連合町内会の石川源七会長
自分の地域、お隣の地域を改めて知る機会に
──今回のバリアフリー基本構想の住民提案づくりでは常盤台地域は保土ケ谷区、羽沢南地域は神奈川区と、区をまたいだ連携だったことも重要なポイントだったと思います。羽沢南地域のみなさんが参加したきっかけを教えてください。
和田:私ども羽沢南の地域は、今回の新駅開業とバリアフリー基本構想をきっかけにお声がけいただいたので、参加したのはごく最近です。最初お話をいただいたときには、正直なところ少し戸惑いました。区も違いますし、それまではまったく交流がなかったですからね。
古城:大原先生と石川会長と私とで、羽沢のみなさんにご挨拶に伺ったのですよね。たしかに戸惑われていた記憶があります(笑)。
和田:ワークショップというもの自体が、よくわかっていませんでした。活動の魅力を理解したきっかけは、最初に参加させていただいたまちあるきです。これが大変面白く、地域内でも評判が良かったんです。
大原:羽沢のみなさんもたくさん集まってくださり、最終的には100名を超える人数で行いました。やはり新駅への関心は高いのだなあと驚いたことを覚えています。
2018年10月第34回ワークショップのまち歩き点検後のまとめ作業
古城:常盤台と羽沢、両方の地域を歩けたのも新鮮でしたね。
和田:最初の活動がもし会議だったら、うまくいっていなかったかもしれません。まちあるきという、ソフトなレクリエーションだったからこそ打ち解けられたのかなと。
石川:それまではほとんど挨拶も交流もないような関係でしたが、新駅への期待感という共通点ができたので、それが良かったのかもしれません。お互い区境なので、要するに端っこ同士なわけですよね。その仲間意識みたいなものも芽生えたのかな。
羽沢南町内会・和田勝巳会長
──郷土史の勉強会も一緒に行ったと伺いました。
石川:そうなのです。まちあるきをするなかで、「街に目印となるものが少ないね」という意見があり、街にサインを設置する取り組みを始めました。その一環で、地域の歴史を紹介する看板を置ければと思い、地域に住む郷土史に詳しい方を招いて勉強会をひらいたのです。それで、せっかくならお互いの地域のことを勉強しようということで、羽沢地区さんと共同で実施しました。
和田:相手の地域についてはもちろん、自分たちの街についても知らないことが意外とたくさんあったのです。
石川:ほかの地域への敬意が深まるきっかけになりました。区も違うと郷土史もずいぶん違うので、「へー、羽沢ってすごいんだなあ」と。
古城:こうした勉強会にもケアプラザを使ってもらえたので、我々としてもありがたかったです。やはり、場の提供ときっかけづくりが自分たちの役割だと思っておりますので。
石川:やっぱり、地域の基本は「人が集まる」ことだと思います。場所がなければ活動もできないので、こういう場ができたのはありがたいことですね。
ワークショップの経験を普段のまちづくりにも活かす
──ワークショップや素案づくりの取り組みを通じて、地域にどのような変化がありましたか?
和田:視野は広がったと思います。普段の地域活動だけだと、どうしても付き合いは羽沢地区の各町内に限定されるのです。このワークショップでは、年代も性別もばらばらで、住んでいる地域も異なる人が集まります。隣の地区でも意外と文化が違うので新鮮です。
古城:たしかに、両地域で雰囲気は結構違うかもしれませんね。
和田:常盤台のみなさんはとても活発です。うちの地域の人はどちらかといえばおとなしい、と気付くきっかけにもなりましたね。
石川:うちの人たちは思ったことをすぐに口に出しちゃう(笑) 羽沢のみなさんは上品で、場の空気をつかんで会話に参加するのが上手だと、見ていて感じます。
和田:最初は戸惑いもありましたが、学生のみなさんがうまく間を取り持ってくれました。回を重ねるごとにどんどん馴染んでいきました。
石川:ワークショップのやり方を教えていただいて良かったのは、それを普段の自治会の活動なんかにも応用できたことです。これまでは地域で自主的な取り組みをやろうとしても、正直なところ面倒くさいし続かないだろうなと思っていました。でも、今は住民のみんながワークショップの良さに気づいているので、意外と続くのです。大原先生と一緒に取り組んだことで、成功体験をもてたからだと思います。
常盤台地域ケアプラザ・古城高之所長
──今後の展望を教えていただけますか。
大原:コロナがあったのでだいぶ遅れてしまいましたが、基本構想については具体的な実現に向けて施設管理者と市が調整中の段階です。実施を担う施設管理者が「どこまで手がけられるか」の調整に苦心しています。
古城:やるとなると土木工事も必要なので、現実的にできるところから進めていく必要がありますからね。
石川:私たちとしては、当面はサインづくりをテーマに活動していきたいと思っています。その先についても、地域の課題はまだたくさんありますし、総合的なまちづくりは今後も考えていく必要があります。先生方さえよければ、ワークショップはこれからもずっと続けていきたいですね。
和田:今、羽沢地区でワークショップに参加しているのは、全11町内会のうち3つだけなのです。新駅というテーマだとどうしてもエリアが限定されますが、テーマによっては、まだ関わっていない町内会も参加できるかもしれません。
大原:テーマが変われば地域も変わるので、エリア設定はその都度検討しないといけませんね。いずれにせよ、私たちも継続的に関わっていきたいと思っています。学生にとっても、貴重なまちづくりの実践の場ですから。
石川:せっかく駅前も開発されますし、積み重ねてきた関係性がなくなるのももったいないですから、今後もこの座組でやれることはやっていきたいですよね。たとえば、「ハザコク祭り」みたいなイベントが定期的にできたら素敵じゃないかと。
和田:新駅はできたばかりなので、これからも常盤台さんとともに地域を盛り上げる取り組みを続けていきたいですね。
子ども目線で地域のバリアフリーを考える
11月に行われた第47回ワークショップでは、「子ども目線でのバリアフリー」がテーマとなりました。コロナ禍の中でまだ大勢では心配のため、参加者は、常盤台地区・羽沢地区の住民たち、保土ケ谷中学校のボランティア部の生徒たちなど、大学側もあわせて56名。会の運営や進行は、横浜国大の学生が担います。
全部で7班に分かれて行うワークでは、事前に地域の小中学生を対象に行ったアンケートを参照しつつ、通学路に潜む「危険」や「不便」について意見を出し合います。参加者のみなさんが大きなマップを囲み、身を乗り出して活発に意見をやりとりする姿が印象的でした。ワークの最後には、班ごとの発表時間も用意されています。そのためか、和気あいあいとした雰囲気ながら、参加者の眼差しはどこか真剣。ほどよい緊張感と活気が会場を包んでいました。
各班それぞれ、中学生からお年寄りまで幅広い年齢層の方が参加しているのもこのワークショップの特徴です。ワークのなかにも「子ども」「女性」「お年寄り」、それぞれの目線に立って危険性を考える内容が含まれていました。他の属性や立場になりきったり、実際にその属性の人から意見を聞いたりすることで、普段は意識しない危険性や不便さに気づけるのも、こうした場の醍醐味です。
自分たちが住んでいてよく知っている街が題材なので、自然と話も盛り上がります。子どもも大人も、街の主役として参加でき、その姿をお互いに認め合える場です。出てくる意見がすばらしかったのはもちろん、こうして意見を交わし合う場そのものが、地域にとって大切な価値を持ちます。そのことを実感できる催しとなりました。
2021年11月6日の第47回ワークショップの様子
<開催概要>
常盤台地域ケアプラザ×横浜国立大学 第47回ワークショップ
「子ども目線のバリアフリーについて確認し地域のルートマップについて考えよう!」
2021年11月6日(土)13:30-15:30
於 常盤台地域ケアプラザ
参考リンク
今回の連携事業の担当教員等
大学院都市イノベーション研究院(建築計画研究室)大原 一興 教授
大学院都市イノベーション研究院(建築計画研究室)藤岡 泰寛 准教授
(担当:地域連携推進機構)
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