YNU地域連携 最前線

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関内のポテンシャルを解き放て!<br>まちづくりのエキスパートを育む「アーバニストスクール」
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関内のポテンシャルを解き放て!
まちづくりのエキスパートを育む「アーバニストスクール」

「YNU地域連携最前線」では、自治体・企業などとの連携事業の中から要注目の活動をピックアップして発信しています。第9回目は、都市を舞台に活躍する専門人材(アーバニスト)を育む「アーバニストスクール」の活動にフォーカス。都市の潜在力を引き出し、豊かで持続的な未来を描くことを目的に2021年から毎年開催されてきました。2023年度で3回目を迎える今回、アーバニストスクールを率いる野原卓准教授、矢吹剣一准教授に活動の魅力について語っていただきます。参加者たちの発表の模様や、ディレクターを務める永田賢一郎氏、小泉瑛一氏らの声もお届けします。

歴史が息づく関内に、
イノベーションが生まれる「かいわい」を

(語り:野原、矢吹)

──まず、アーバニストスクールの概要について教えてください。

野原:現在の形で行うアーバニストスクールプログラムは、3年前に開始されました。関内には開港から続く文化・経済・社会の積み重ねがあります。ここをフィールドに、都市の未来を見据えて課題解決に取り組めないか。そんな思いで参加者を募り、関内の持ち味を活かしたさまざまな企画立案を試みることにしたのです。

矢吹:関内には近年、文化芸術創造都市政策とともにたくさんのクリエイターが集まっています。そこで、今年度は「イノベーションネイバーフッド(創造かいわい)を芽吹かせるための企画立案」を柱として掲げました。

──どういった方々が、本スクールに集まるのでしょうか。

野原:都市について学ぶ大学生や大学院生、横浜近隣で働く社会人を合わせた20名ほどです。なかでも幅広い業界の社会人が参加しているのが本スクールの特徴で、日頃から都市づくりに携わっている方々のほか、都市政策について学びたい市町村職員の方々もいます。

──具体的には、どのように活動を進めていくのですか。

矢吹:学生と社会人を合わせた5人1組で4つのグループを作り、各々にテーマを決めてフィールドワークを実施。そこから見出された課題をもとに企画立案を行い、発表してもらいます。ゲスト講師として都市政策や都市デザインの専門家も招き、フィードバックをもらえるようにしました。メンバーたちが実際に関内に足を運び、膝を突き合わせて議論する。コロナ禍でのスタートでしたが、こうしたリアルなコミュニケーションも取り入れながら活動を進めてきました。

──学生と社会人がチームを組んで活動する意義は何でしょう?

矢吹:普段は街から離れたキャンパスに通う横国生たちが、横浜の都市部に出て実際に働いている方々と議論する。学生たちが机上でイメージしている課題解決と、実社会との距離を縮める貴重な機会になっています。

野原:社会人の方にとっても意義があります。日頃は仕事に追われて、都市の在り方について考える時間を取れないことや、仕事を通じて染み付いた通念によって自由闊達な提案ができなくなることは少なくありません。学生からのアイデアは大きな刺激になるようです。お互いの良さを持ち寄って学べるのも本スクールの大きな魅力です。

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アーバニストスクールのコーディネーターを務める野原卓准教授

アーバニストたちが提案する、関内の未来とは
〜最終発表の現場から〜

グループ1 『KADODE』〜イノベーションプレイス〜

(発表者:景⼭、⽊寺、三嶌、三吉、⾦)

関内らしさを「面白くて活力的な、住む人・働く人がいる街」と定義して、それを守っていくことを目的に据え、関内の利用者が交流できる場作りを企画の軸にしました。交流に適した場所として着目したのは、文字通り「流れが交わるところ」すなわち交差点。通りすがりに思わず顔を出したくなるような仕掛けを模索しました。

そこで屋根とデスクを備えた「カドデ」というスペースを提案します。行き交う人々が、デスクを間借りして活動していく。これが繰り返されることで、「常に何かが起きている」交差点の風景を生み出す狙いです。短期的にはカドデの認知を広げるべく、ゲリラ的にカドデを設置して通行人に興味を持ってもらいます。中期的にはカドデを常設し、「ここに来れば何か面白い出会いがあるのではないか」という認識を人々の中に刷り込んでいく。長期的には関内のさまざまな交差点にカドデを設置し、地域のコミュニケーションを刺激するハブへと育っていけば理想的です。

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グループ1の最終発表の様子

グループ2 ニジカツでまちを使いこなす

(発表者:川島、黄、佐藤、長岡、中能)

イノベーションプレイスを「さまざまな特性の人々のコミュニケーションが生まれる場」と定義して、ソフト面から企画を考えました。既存のスポットをセカンダリー利用(二次利用)することで、今まで活用しきれていない都市の魅力を見いだす活動、略して「ニジカツ」を提案します。セカンダリー利用とは、あるものを本来とは別の目的で使うこと。実際に、関内ではさまざまなセカンダリー利用が見つかります。例えば店の軒先で野球観戦をしていたり、屋上の換気口をテーブル代わりに宴会をしていたり。こうした発想が、街を使いこなし、人々の居場所を生み出すヒントになるのではないかと考えました。

ニジカツの可能性を探るべく、まずは駐車場をセカンダリー利用したゲリラ上映会を開催。使用されていない駐車場にレジャーシートを敷き、分電盤をスクリーンに見立てて映画を上映したのです。通行人の目が気になるかと思いきや、植え込みや隣に駐まった車がちょうどいい目隠しになり、想像以上のくつろぎ空間に。今後は関内のさまざまな場所で上映会を催したいです。その先にあるゴールは、関内の至るところでコミュニケーションが生まれること。ニジカツに共感する人を増やし、活動を広げていきたいです。

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グループ2の最終発表の様子

グループ3 カルチュアルイノベーション

(発表者:田中、東、堀篭、町山、村田)

防火帯建築とジャズバーは、戦後の関内を象徴するふたつの要素です。これらを併せ持った関内の有名なジャズバー「Bar Bar Bar」に注目しました。ここは移転と旧店舗の取り壊しが予定されています。そこで、建物のユニークな「しまい方」に着目。5つの企画を盛り込んだ「メモリアルプロジェクト」を提案します。

ひとつ目は図録の作成です。建物の図面やこれから行うメモリアルプロジェクトの活動記録を盛り込みます。ふたつ目に、旧店舗への感謝を込めて大掃除のイベントを実施。3つ目には、若者にBar Bar Barを知ってもらうべくドリンクをふるまうほか、バーのマスターや防火帯建築の専門家から、建築について語っていただくポップアップイベントを考えています。4つ目として、旧店舗でのジャズイベントを計画。最後に「Bar Bar Barからの贈り物」と題して、旧店舗に残るバーカウンターや装飾などを関係者の方々に譲るセレモニーを開きます。関内の歴史が息づき、多くの人々が通った旧店舗の物語を継承していく。そんな「語り部」のような役目を、このプロジェクトを通じて果たしていけたらと思います。

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グループ3の最終発表の様子

グループ4 モノからつながる「創造」的都市

(発表者:安藤、一宮、高橋、武部、安井)

空き家を活用し、アップサイクルを通じて関内の人々の出会いを促す試みです。都市生活のなかで出たゴミから、新たなものを生み出す。この活動を通じて、プロダクトデザイナーやテキスタイルデザイナーなどのクリエイターと、市民との交流も生み出せると考えました。

さまざまなゴミのなかでも着目したのは紙とテキスタイルです。なかでも紙はクリエイターに限らず市民にとってもなじみがある素材です。紙袋、コーヒー豆を入れる麻袋、オフィスから出るミスプリント、市民から回収した古着や布きれの活用を想定しています。まずは雑居ビルの1フロアを借りて、1日限定のポップアップイベントを開催。そこでアップサイクルによって作られた商品を販売したり、アップサイクルによるものづくりを体験できる市民向けのワークショップを行います。これを何度か繰り返し、継続できる見通しを持てたら、将来的には物販とワークショップの機能を兼ね備えたスペースを常設する計画です。

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グループ4の最終発表の様子

アーバニストスクールは、アカデミアと社会実践をつなぐ場

(語り:永田、小泉)

──アーバニストスクールにおけるディレクターの役割を教えてください。

永田:スクール内容の企画提案から始まり、企画段階から相談に乗り、スクールが始まるとメンターとして各グループに助言を行うのが主な役目です。参加者たちの進捗状況に気を配り、必要に応じてフォローします。

小泉:会場設営やパンフレット制作、活動中の撮影や記録といった運営面でのサポートも私たちの役目。私たちはともに横国の建築系の卒業生なので、OBの視点からアドバイスしたり、まちづくりの実践者としての経験を伝えたりもしています。

──横浜国立大学を母体として活動する良さとは何ですか。

小泉:横国の卒業生として感じるのは、学びの領域、特に自ら学んだ建築学科としての奥行きの深さです。意匠や都市計画といったさまざまな学問領域があることに加えて、関内という題材が身近にある。大学での学びを活かしてトライアル&エラーすることが、再び建築学や都市計画学にもフィードバックされていく。そうした実証の場になっていることが、横国を母体に活動する大きな価値だと思います。

永田:一方で、社会人の方にとっては、アカデミアをハブとして日頃接点のない業種の方から新たな視点を取り入れる機会になります。この活動を通じて得た知見を、それぞれのフィールドに持ち帰って実践してもらえたらいいですね。

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アーバニストスクールのディレクターを務める永田賢一郎氏(左)、小泉瑛一氏(右)

プログラム紹介

アーバニストスクールとは、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府・研究院による、横浜・関内地区を題材とした未来の「アーバニスト」を育てる実践型スクール。実際のまちを歩き発見した地域資源を活用しながらチームごとにテーマに基づいた企画提案を行う、プロジェクトベースドラーニング型(PBL)のプログラムです。第3回目となる「YNUアーバニストスクール2023」では、関内エリアのフィールドワークと社会実験を含む全8回の講座が実施されてきました。今後も具体的な企画立案を通じて、都市を舞台に活躍するアーバニストを育んでいきます。

参考リンク

(担当:地域連携推進機構)

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