YNU地域連携 最前線

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立場を超えて、みんなで海を守るために。 真鶴で町民や研究者たちがフラットに海について話す「海トーク」開催
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立場を超えて、みんなで海を守るために。 真鶴で町民や研究者たちがフラットに海について話す「海トーク」開催

2025年9月14日、真鶴駅前の〈真鶴ピザ食堂KENNY〉の2階で、「温暖化と台風と海」をテーマに、海まちラボ「海トーク」が開催されました。

登壇したのは、横浜国立大学・台風科学技術研究センターの吉田龍二准教授と、国立環境研究所の土屋健司研究員。「台風」をキーワードにそれぞれの切り口で温暖化について話しました。

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満席の会場で始まった海トーク

「大災害につながるレベルの台風を、少しでも弱めることができないか、というのがこの研究の目的です。天気予報で、甚大な被害になる台風が上陸することが分かっていたとします。そのときに、もし我々が台風に働きかけることで雨の量を減らすことができれば、大災害は防ぐことができるかもしれませんよね」

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台風科学技術研究センター・吉田龍二准教授

「人間の力で台風を弱める計画がある」。そんな驚きの発表をしたのは吉田龍二准教授です。吉田准教授からは、温暖化や台風のそもそもの仕組みから始まり、ご自身の台風制御の研究についての解説がありました。

吉田准教授が所属する台風科学技術研究センターでは、台風を体系的に捉えながら、さまざまな角度から防災・減災につなげるための研究が行われています。台風は大きな被害をもたらす脅威ですが、実は海中をかき混ぜ、海を豊かにするというプラスの側面も持っています。そのため、「台風自体をなくす」のではなく、「大被害につながる前の、台風のエネルギーをどのようにして弱めていくのか」が重要になってきます。

たとえば、「上陸する前の台風に帆船を近づけて弱める」、もしくは「ドライアイスの微粒子を上空から巻いて雲自体の性質を変える」など、減災のための具体的なアイデアの共有もありました。

続いて土屋研究員からは、台風の雨風による海中環境の変化についてお話がありました。

「真鶴港にちょこっと出っ張っている堤防があって、我々はそこを〈ステーションA〉と名付けて調査しています。台風通過直後にステーションAと水深120mの沖合の地点ステーションMで集中的に現場観測を行い、台風が海の表層から深層の生態系にまで短い期間で影響を及ぼしていることを、世界で初めて明らかにすることができました」

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国立環境研究所・土屋健司研究員

台風で海に川の水が流れ込んだり、強い風が海水をかき混ぜたりすることで、海の中の生態系は大きく変わります。その生態系の変化を具体的に調べるために、真鶴で現場観測が行われていたそうです。

そもそも台風の現場観測は危険を伴うので、多くの観測は気象衛星でされています。そのため、台風直後に採った海中の水のデータはとても貴重。真鶴でどのような調査が行われ、どのような数値を計測できたのかを、具体的なデータをもとに紹介してくれました。

このように海トークでは、開催地である真鶴や参加者の生活と結びつけながら、一見すると難しく感じるような専門的な研究内容を噛み砕いて紹介されました。講演後のディスカッションでは、小学生の参加者からも質問が出るなど、終始アットホームなひとときとなりました。

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参加者は町内外から約36名。子どもから大人までさまざまな年代の人が参加した

この海トークの企画・運営は、横浜国立大学・臨海環境センターとNPO法人ディスカバーブルー。ディスカバーブルーは15年前から真鶴に拠点を置く、横浜国立大学発の海洋ソーシャルベンチャーです。「研究者とまちの人とがフラットに海について考え話す時間」をつくるため、地域連携推進機構の取り組みが始まる前から、真鶴で海トークを開催していました。

今回は、臨海環境センター・下出信次センター長、髙山佳樹助教、ディスカバーブルー・水井涼太代表理事に話を伺いました。

「研究」は生活者に届いてこそ。研究者と町民の接点をつくる

──まずは、海トークが始まるきっかけについて教えてください。

水井:事業としての海トークのスタートは、真鶴町立遠藤貝類博物館(※)のイベントですね。町民の人たちがもっと海に対して興味を持ってくれるよう、そういう雰囲気づくりをしていきたいというところから始まっています。真鶴に限らずですが、海の研究は社会とかなり乖離してしまっているところがあるんです。そこで、第一線にいる海に関係する人を呼んで、分かりやすく町民に向けて話してもらい、さらにディスカッションの場がある、というイベントを企画しました。元々は遠藤貝類博物館から委託されてやっていたんですが、途中から共催してくれていた横浜国立大学が主催となり、いまも続けています。

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ディスカバーブルー・水井涼太代表理事

下出:海トークの初回は、私が登壇してプランクトンの観察をしたんです。私が話したあとに、参加者に顕微鏡で実際にプランクトンを見てもらいました。初回の2021年からもう9回開催していますね。

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臨海環境センター・下出信次センター長

髙山:私は2022年に着任したタイミングで、プランクトンを使った汚水処理や、医薬品原料をプランクトンからつくる話をしました。

水井:海は研究者だけでも、漁師だけでも守れるわけではない。海トークでは、バックグラウンドは関係なく、個人として、みんなで海を守るためにどうしようか、と話ができるといいのかなと思っています。

──これまでにどういう人たちが参加してきましたか?

水井:海トークは基本的には町民向けです。「町民にサイエンスをインストールする」ような形で始めています。だから、地元の人にも分かりやすいように、講演の内容も検討してもらい、また、最後にはみんながフラットな関係でディスカッションできるように運営しています。登壇する研究者も、このマインドを分かってくれる人にお願いしていますね。研究者もあまり直接一般の人と話をする機会がないんです。工学系や土木系の研究は、研究成果が製品となって世の中に出ていくことが多いんです。でも自然科学は研究して終わってしまうこともある。一般の人に研究が届いてこそ、自然科学の研究成果の社会実装だと思うんです。自分の研究を理解してもらって、日々の生活が豊かになること。例えば漁師たちが自分たちの仕事に生かせるとか、そう思ってもらうところまで、伝えていかないといけない思っています。

下出:今回の海トークの吉田先生の研究成果も、いつもみなさんが見ている天気予報に実装されているんですよ。スーパーコンピューターを使って計算させて、台風を再現して……と聞くと、非常に浮世離れした話ですよね。だけど実は、知らない間に研究の成果が実生活に使われているということは結構あるんです。また、研究者によっては、単におもしろくて興味があって研究をしているだけなので、一般の人に伝えることに重きを置いていないこともあって。研究者にも一般の人に伝える重要性を理解してほしいし、町民にも、自然科学の研究が生活につながっているということを理解してほしいですね。

水井:町民にとっても、こういった研究の接点に触れることはすごく大事だなと思います。台風や地震は「正しく恐れる」必要があります。「難しいからよく分からない」と放置するのではなくて、ちょっと理解するだけでも考え方は随分変わる。町民の人たちにそういうことを分かってもらえるといいですね。「他人事ではなく、自分たちでアクションを起こせるんだよ」という雰囲気になるといいなと思っています。

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講演後は水井さん司会のもと、講演者と参加者の意見が交わされる

下出:海トークは研究者にとって、「何を聞かれているか」、「何を求められているか」を読み取るトレーニングになっていますね。普段の学会では、同じような研究をしている学生だったり、研究者、先生たちが聞いているので、議論が噛み合うわけですよね。前提知識もあるし。でも海トークはそうではない。それは我々にとってある意味怖いことでもあるんだけど、同時に非常に良い機会だなと思っています。相互理解するために、もっている前提条件や知識が違う人たちと話す。論点がずれたときに、どう説明すれば分かってもらえるのか。研究者も自分の研究成果を話しているので、やっぱり理解してほしいし、きちんと伝わってほしいので伝えようと努力するんです。

髙山:実は研究者は自分の研究に対してフィードバックを求めているんですよ。意見をもらって、自分の研究をもっと発展させたい、もっと良くしたいという思いがあって。ただ、普通の講演形式でやるとフィードバックが出にくい。でも海トークは少人数で、かつ会場がピザ屋という空気感もあって、ツッコミや質問が返ってきやすいんです。僕自身がサンゴの話をしたときも、すごく気づきがありました。「海藻が戻ってほしい」と思ってる人もいれば、「海藻はもう無理だよね」と諦めている人もいる。結構ネガティブな話も出たんですが、それがすごく良くて。そういう町民の本音が聞けたので、「次はどういう研究しなきゃいけないか」の参考にすごくなりました。それまで、「自分の研究を発信すること」は「やらなきゃいけないもの」というネガティブなイメージをもっていたんです。でも海トークに参加して、「発信」が研究のためになるんだと実感しました。なので、最後のディスカッションが一番大事で、楽しい学びがあるなと思って参加しています。

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ディスカッションでは参加者から続々と質問があがった

いろいろな海のプロがゆるやかに連携し、地域との関係性の中で活動する

──海トークを始めてみて、開催地である真鶴との関係性は変わりましたか?

下出:こういうイベントをやると、町民の方に、臨海環境センターではどんな研究をしていて、どこを目指してるのか、そしてそれを地域に還元しているというところも含めて、理解してもらえると思いますね。実は水井さんたちは、20年くらい前から毎年、まなづる小学校の6年生に臨海環境センターに来てもらってプランクトンの採集や観察を行ったり、地域の子ども達や保護者をセンターの船に乗せて海洋調査体験をしてもらったりしているんですよ。で、そこに参加していた子どもが大人になり、こういうイベントに参加してくれている。私ぐらいの世代や、もっと上の地元の人たちは、臨海環境センターが大学の施設だということは知っているかもしれないけど、何をやっているかは分からない人たちが大半でした。でもいまは、海トークのようなイベントにも若い年代の人たちがちらほら来るわけです。それはこれまでの20年の積み重ねがあるからこそ。他の地域と違って、海に対するリテラシーが上がってきているじゃないかなと思います。それにはこの間、ハッと気がつきました。

水井:子どもたちに海のことを教えることは、決して海洋生物学者や海のマニアを育てたいわけじゃないんです。海を大事に思ってくれる人たちを、社会の隅々に送りたいからなんです。「真鶴らしさ」でいうと、真鶴には良い意味でいろんなステークホルダーがいます。漁師やダイバー、フリーダイバーもいて、こういう人たちが主流になった「海を学び、海に親しむ場づくり協議会」も15年ぐらいやっています。そこでもみんなでフラットに話し合えるんですよ。何か呼びかけたら手を貸してくれるし、向こうも困ったら声をかけてくれる。だから、海トークのディスカッションもそういう人たちが来てくれると盛り上がる。真鶴にはいろんな海のプロがいて、その人たちがゆるやかに連携してるが特徴だと思いますね。

下出:こんな実験所、ほかにはないと思いますね。臨海環境センターはもともとは教育のための施設だったんです。その成り立ちがあるから、子どもたちを通して地域にも目を向けている。水井さんもそうですが、ここから人材が出てきて、地元にどんどん溶け込んでいってくれている。いま、どこの大学の施設も「地域に還元していこう」と取り組み始めていますが、実際うちみたいに、いろいろなことができるところは少ないんじゃないかな。よく海の実験所は、漁協や旅館組合と揉めたりするんです。うちはそういう地元との関係性がすごく良い。臨海環境センターの職員は私を含めて3人だけの小さな体制ですが、研究しやすい環境がある。

──長年積み重ねてきた地域との信頼関係があるんですね。最後に、今後取り組みたいことを教えてください。

下出:いまは大学として、温暖化に関連する研究を進めているところです。「温暖化」というと、イメージとしてはグローバルな環境変化で、地球全体が熱くなるというような話が多いですよね。でも実は、そうじゃないローカルな部分もあって。温暖化をキーワードに関連した人を呼んできて、それを町や県、あるいは相模湾くらいのローカルなスケールで考える、ということを始めたいと思っています。あと、真鶴は軸足なので当然継続しつつ、せっかく大学が横浜にあるので、横浜でも似たようなものができるといいなと考えています。他にもやりたいことはいっぱいあって、「この人にこのテーマで話してほしいな」みたいなのは、いくつか頭の中にはありますね。

水井:いま下出先生と話している人選は、結構オーバースペックなんですよ(笑)。でもオーバースペックでいいから、どんどんおもしろい人を真鶴に連れてきて、その人たち自身にも楽しんでもらいたいと思っています。研究者側が「すごくおもしろかった」という気づきを得る。これがモデルになって、日本中でみんなが海トークのようなことを始めるといいなと思うんです。「真鶴モデル」じゃないけど、みんながやり始めると日本全体のリテラシー向上にもつながると思う。だから楽しい人をどんどん海トークに呼んでいきたいですね。

髙山:ぼくはちょっと難しい挑戦ですけど、市民科学的なアプローチができないかと考えています。たとえば、みんなで海藻の苗植えをやって、生態系修復をする。うまくいく、いかないは置いておいて、その結果を私たちではなく市民の人に報告してもらって議論する。そういう場をつくれないかなと思っています。自分自身がやることは変わっていないんですが、海トークを通して、心の持ち方が変わりましたね。まちの人たちからいろいろなアイデアが出るんじゃないかと思っています。

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海トークはアットホームな雰囲気で終了した。

(担当:地域連携推進機構)

公開日:2026.03.05

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